その子の「やりたい」に寄り添う
小学1年生
やりたいことがあるのに、できない!
私が出会った頃のNくんは、ちょっぴりこだわりが強い子で、自分の納得いくように、ものづくりが出来なかったりすると授業の最後にこらえきれず泣いてしまうようなところがありました。その一方で、誰かに見本を示されなくても「自分はこうしたい」「こういうロボットをつくりたい」という意思をしっかりと持っていることは彼の強みでした。
LITALICOワンダーでは、フォークリフトやアームロボなど、メカっぽいものをつくることに憧れがあり、ロボットが可動する部分などの機械構造にも関心を持っているようでした。ですが、通い始めたばかりの頃は、つくりたいロボットのイメージが明確だからこそ、実際にロボットを製作する中で可動する機構部分の製作に時間をかけすぎてしまい、プログラミングをして動かすところまでいくことができずにいました。その結果、失敗体験に繋がってしまい、Nくんの自己肯定感を下げてしまうことがありました。
達成感を感じられる授業設計
そこで、Nくんには「自分で立てた目標を達成した」という成功体験が不足しているのでは、という考えの元、授業設計を行うことになりました。
具体的には、
◯簡単にクリアできる、かつNくんが魅力的に感じる目標設定を行う(目標の難易度調整)
◯Nくん自身に決めてもらうプロセスを入れる(意思決定の支援)
◯ロボット製作のプロセス内に小さな目標を複数設定し、達成感を感じやすくする(スモールステップ)
という3つの方法を実践していきました。
自分でできると思ったことを、なかなかできなかったことが、Nくんの自己肯定感を下げてしまう要因だと推察されたため、Nくんの実力のななめ上のことを目標とすることを意識しました。実力のななめ上とは、テキスト内で簡単なアレンジの工程を入れたり、テキストではなく動画だけでロボットをつくってみたり、とNくんにとって初めて取り組むことを増やし、Nくん自身に難易度を想定させるのではなく、でも難しいことにチャレンジしていると感じられる演出を心がけました。
そして、この目標設定の中では必ず選択肢を示し、Nくん自身が「自分で」やることを決めたと感じられるようにサポートしました。こうすることで、難易度がそこまで高いことではなくてもNくんはしっかりと達成感を感じられるようになり、自信や自己肯定感が育っていったように感じます。
また、Nくんはロボット製作をする中で「完成すること」にこだわりを持っているところがありました。「完成すること」以外の目標を設定することで、製作のプロセスでも達成感を感じられるようになり、完成することだけにこだわらなくなることを目指しました。
つくる過程も楽しめるようになった
こういった授業設計の成果から、いつのまにかNくんが教室で泣いてしまう 事はなくなり、テキストの内容を必ず完成させなければならないと考えるのではなく、あくまでヒントと捉えられるようになったように感じます。途中までつくったロボットを壊して、つくり直しができるようになり、たとえ完成まで行かなかったとしても次の時間につくればいいと気持ちの切り替えもできるようになりました。何よりNくんがつくりたいものを自分で考えて、つくる過程も楽しめるようになったことは本当に嬉しく感じています。
普段からLITALICOワンダーでは、お子さん一人ひとりの個性に注目して、授業設計を行っています。どんなことが得意で、何に課題があるのかをよく見て、その日の授業が終わった時に何を持って帰ってもらうかを毎回設定しています。
Nくんのように長期的な視点で関わっていくことで、気持ちのコントロールや自信を育てていくこともあったり、年長や小学校低学年でもロボット製作を通じて、掛け算や距離の計算など算数的なことを自然と取り組んでいくこともあります。
そして、何より子どもたちに何か1つでも好きなものやわくわくするものが増えたらいいなという気持ちで関わっています。
メンターよりコメント
決まった一つの正解に向かうのではなく、無限にある中から自分が選んでセットしたゴールに向かうお子さんたちの姿勢に、いつも感激しながらそばにいさせてもらっています。
Nくんは「この教室が楽しい」「ロボットが好き」という気持ちを持ちながら笑顔で通ってくれていて、スタッフとして嬉しく感じています。そのため、Nくんの楽しみにつながる関わり方は何がベストなのかを考えていきました。
頭の中に描いたイメージを形にしようと取り組む姿勢、その過程で一度壊して作り直す勇気を見た時は、Nくんが日々感じることができた自信がそのような行動につながったのかなと思い、胸がいっぱいになりました。
Nくんに限らず、どのお子さんにとっても、体と心が創造力でいっぱいになるような空間になればいいなと思いながら接しています。