最終更新日:2022.10.12
公開日:2022.09.30
- アクティブラーニング
アクティブラーニングとは?意味や手法、効果や事例を解説します
「アクティブラーニング」という言葉を最近目にすることが増えてきたのではないでしょうか?
アクティブラーニングは、2020年度から小学校で実施されている「新しい学習指導要領」に重要な位置づけをされていることもあり、注目を集めています。
しかし、「具体的に何をするもの?」「これまでと何が違うの?」「子どもの将来にどう役立つのだろう」とあまりピンと来ていない方も多いと思います。
この記事では、アクティブラーニングの言葉の意味、目的、子どもへの効果や実際の事例をお伝えします。
アクティブラーニングとは
アクティブラーニングという言葉は聞いたことがあっても、意味までは知らないという方もいると思います。
まずはアクティブラーニングの意味や定義、アクティブラーニングが重要視されるようになった背景など、アクティブラーニングを理解するために必要な情報を紹介します。
アクティブラーニングの意味と定義
アクティブラーニングは直訳すると「能動的な学習」となります。
アクティブラーニングは学術用語ではないため明確な定義はありませんが、文部科学省では「アクティブ・ラーニングに関する議論 アクティブ・ラーニングの失敗事例調査から」の中で、
「アクティブ・ラーニングとは、学生にある物事を行わせ、行っている物事について考えさせること」
という、BONWELL and EISON (1991)の定義を用いています。
これからの社会で生きていくための力を養っていくため文部科学省の定める「学習指導要領」でもアクティブラーニングの視点に立った授業改善していくことが記載されています。
アクティブラーニングでは一方的に知識を得るだけでなく、子どもが自ら意志を持ち、他の人とコミュニケーションを取りながら、より深い学びを得ることを目指しています。
例えば、廿日市市立四季が丘小学校の事例によると、小学校1年生向けのアクティブラーニングとして、「絵本を読む」という授業があります。
その授業では、従来のようにただ自習するのではなく、「どこが好きだったか」を友だちと教えあっていきます。
子どもたちは自分が好きなものを紹介するので、楽しんで参加でき、人に伝えることで自分の好きなことが明確になり、他の子どもの意見を聞いて考えを深めていくことができます。
アクティブラーニングを進める背景
ここでは文部科学省がアクティブラーニングを進める背景を紹介します。
文部科学省では現代社会は「情報化やグローバル化といった社会的変化が、人間の予測を超えて進展」しているとしています。
出典:文部科学省「教育の情報化に関する手引 第1章 社会的背景の変化と教育の情報化」
情報化の身近な例でいうとスマートフォンの進化などがあげられます。
Apple社のiPhoneが日本で発売されたのが2008年で、現時点で15年も経たないうちに私たちの生活を一変させてきました。
それを考えると、現在の子どもたちが大人になるころには社会がさらなる「人間の予測を超えて進展」をしているという話もうなずけるのではと思います。
そんな未来の社会で子どもたちの「生きる力」を育むことを、文部科学省は「新しい学習指導要領」の目的としており、そのための方法の一つがアクティブラーニングです。
たしかにコンピューターの進化は著しいものがありますが、コンピューターは与えられた指示を実行するだけなので、新たな技術は人間が創造し進化させていく必要があります。
先ほどの例でいうと、iPhoneをつくり出し、便利に進化させていったのは人間です。
文部科学省でも「人間は、感性を豊かに働かせながら、どのような未来を創っていくのか、どのように社会や人生をよりよいものにしていくのかという目的を自ら考え出すことができる。」としています。
情報化が非常に速いスピードで進んでいく中で、主体的に考え、動いていく力がこれからの社会で必要とされています。
その力を養っていくために「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」ができる、アクティブラーニングが重要とされるようになりました。
アクティブラーニングの手法
アクティブラーニングの概要を説明してきましたが、ここでは前の章で挙げた「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」を得るために効果的とされるアクティブラーニングの手法をとして「ジグソー法」と「PBL」を紹介します。
ジグソー法
ジグソー法とは、それぞれが学習した内容を持ち寄って、一つにまとめ上げるアクティブラーニングの手法です。
別々の知識が集まって一つの形になることをジグソーパズルに例えて名づけられ「知識構成型ジグソー法」とも呼ばれています。
最終的にまとめたい大きなテーマを設定し、それを小さいテーマに分解して、それぞれ小さいテーマごとに調べたことを持ち寄っていきます。
例えば、「ゲームのつくり方」という大きなテーマを取り上げるとき、「キャラクターのつくりかた」「音楽のつくり方」「プログラミングの仕方」「ストーリーのつくりかた」といった小さいテーマに分解し、まずは第1のグループに分かれて学習します。
第1のグループでは、グループごとに「キャラクターのつくりかた」といった1つの小さいテーマについて学習していきます。
そのあとに、第2のグループに分かれます。そこには第1のグループから1人ずつ参加することになり、それぞれが学習した内容を発表してつなぎ合わせます。
第2のグループの中には、「キャラクターのつくりかた」などの小さいテーマついて知っているのが自分しかいない状況になるので、学んだ知識を主体的に伝えていくことが求められます。
また、伝えるためには深く学んでいることも必要ですし、他の子どもに理解してもらうための伝え方も大事になってきます。
PBL
PBLとは「Project Based Learning」の頭文字をとったもので日本語では「問題解決型学習」と呼ばれる手法で、自分で問題を見つけ出し、解決する能力を身につけることを目的としたアクティブラーニングの手法です。
PBLには「チュートリアル型」と「実践体験型」があります。
チュートリアル型ではある課題に対して、グループになってその問題点やそれを解決する方法などを話し合っていきます。
教室内で完結することができるため、アクティブラーニングで用いられるPBLの多くはこのチュートリアル型です。
実践体験型では、地域や民間企業などと協力して、実際に現場に入り、その中で問題点の発見と解決方法を探っていきます。
たとえば「商店街を活性化させよう」というテーマで、実際に学校の近くにある商店街の人と協力して問題解決に当たるなどの例があります。
学校外部の協力が必要なため実施できる機会は多くはないですが、実際の社会の中で問題解決に当たるため、効果は大きくなります。
どちらの方法でもPBLは答えの決まっていないテーマに対して、自ら問題点を発見し、グループで仮説と検証を行っていきます。
その過程で、主体性も、協調性も必要となりますし、さまざまな視点から考えることで深い学びを得ることにもつながります。
ここで紹介した手法はアクティブラーニングの一例で、手法ごとの具体的な進め方もその時の状況などによって変わってきます。
アクティブラーニングの効果
アクティブラーニングが子どもたちにどのような効果があるのか、どんな能力が身につくのかをここで紹介していきます。
新しい学習指導要領では子どもが身につけてもらいたい能力や資質を次の「3つの柱」として表しています。
- 知識及び技能
- 思考力・判断力・表現力など
- 学びに向かう力、人間性など
そしてこれらの能力・資質を身につけるため、アクティブラーニングの視点に立った授業の改善が重要と位置づけています。
それぞれの能力・資質について簡単に見ていきましょう。
知識及び技能
知識や技能とは、国語、数学、地理、歴史など従来の教育でも学んできたことも含んでいます。従来の教育と、アクティブラーニングで異なる点として、アクティブラーニングでいう知識は「実際の社会や生活で生きて働く」知識を指してることが挙げられます。
たとえば「商店街を活性化させるためには」というテーマがあったとしても、その商店街が東京にあるか青森にあるかで問題点も解決方法も違ってくるはずです。そういったときには地理や歴史の知識が有効になってきます。
そして他の人と協力して進めるには、人にわかりやすく伝えるための国語力や、活性化させるためにどのくらいお客さんを増やすかなどの数学力も必要になってきます。
このように、アクティブラーニングではただ単に知識や技能を詰め込むのではなく、社会で生かせる状態にする力を養っていきます。
思考力・判断力・表現力など
アクティブラーニングによって答えのない問題を主体的に考えていくことで、思考力・判断力・表現力も身につく効果があるとされています。
みんなで一つのテーマを話し合う時も、意図を考える思考力や、その意図に合わせて適切な言動を判断する力、自分の意見を相手に伝えるための表現力などがアクティブラーニングによって養われていきます。
「商店街を活性化させるためには」というテーマでも、地元のお客さんを増やす場合と、観光客を増やす場合では話し合いの流れも変わってきます。
そういった場面をアクティブラーニングで多く経験することで思考力・判断力・表現力などの能力が身につき、今後社会に出て未知の状況に出くわした時にも主体的にかかわることができるようになります。
学びに向かう力、人間性など
「学びに向かう力、人間性など」とは抽象的でわかりづらい表現ですが、物事に興味関心をもって、問題を自分事としてとらえて積極的に関わっていくこととされています。
知識や技能、思考力・判断力・表現力などを学んだとして、それを生かそうという意思がなければ活用することはできません。
「商店街を活性化させるためには」というテーマがあったとしても、なぜそれを自分がする必要があるのかが実感できなければ、自主的に知識などを生かそうという気にはなれないでしょう。
アクティブラーニングでは、全てを子どもに任せるのではなく、先生が適切に関わることによって、「なぜ自分がそれを行う必要があるのか」ということが実感できるように進めていきます。
アクティブラーニングを通してそういった体験を繰り返して、社会に出た後もさまざまなことを自分事として捉えて積極的に問題解決に向かう姿勢を育てていきます。
アクティブラーニングの導入事例
ここでは実際に学校でアクティブラーニングを導入した事例を2つ紹介します。
自分の好きな本を紹介し合う
一つ目に広島県にある廿日市市立四季が丘小学校での事例を紹介します。
こちらは小学校1年生の授業で「好きな本を紹介しあう」というテーマを通して、アクティブラーニングを実践した例です。
好きな理由をまとめる
子どもたちが絵本を読んで、好きな場面とその理由をまとめます。
このとき先生が「自分の経験と結びつけること」を伝えて、理解を促します。
ペアで共有する
次に、ペアになって好きな場面と理由を伝えあいます。
ペアを替えて何度も実践することで、子どもたちは、相手と共通なところ、異なっているところを発見し、相手と気持ちを共有できるようになっていきます。
全体で共有する
今度は先生が子どもたちが選んだ好きな場面をホワイトボードなどに整理していきます。
それを見て子どもたちは視覚的に多様な考え方があることを学びます。
振り返る
最後に振り返りをしていきます。
子どもたちからは「もっと話を聞きたかった」「好きな場面を紹介できてうれしい」など感想を話してもらうことで、授業に実感を持ってもらうことができます。
けがの防止ポスターをつくる
二つ目に秋田県の由利本荘市立西目小学校の事例を紹介します。
今度は小学校3年生の授業で、学校に掲示するポスターを作るためにどのようなグラフを使ったらいいか考えることをアクティブラーニングとして実践した例です。
見通しをつける
先生から校内でのけがをした時間と人数をあらわしたグラフが伝えられます。
グラフはあえてメモリの単位が異なる3種類を紹介し、子どもたちに「けが防止ポスターで使うにはどのグラフがいいか」を考えるよう促し、子どもたちは各自で考えていきます。
お互いの考えを比較する
各自で考えた後は、他の子どもたちと考えたことを共有して違いを比較していきます。
先生が交流が盛んになるように促していき、子どもたちは他の子との比較から自分の考えを深めるヒントをもらいます。
考えを再構築する
他の子どもから聞いた考えをもとに、各自で考えを再構成していきます。
その時に他の子どもからヒントを得た部分は青い丸で囲むようにして、自分と他の子どもの考えがどのように関係して考えが深まっていくのかわかるようにします。
そうすることで子どもが考えを深めていく過程を自覚できるようになっていきます。
振り返る
最後は振り返りとして、自分の考えが深まった場面や場面を整理していくことで、この授業で学んだ経験を今後に生かしていけるようにしていきます。
アクティブラーニングとプログラミング教育の関係性
アクティブラーニングとともに「プログラミング教育」という言葉も最近注目を集めています。
こちらも新学習指導要領により、2020年度から小学校で必修化されています。
プログラミング教育というと、プログラミングを学んでプログラマーを育成するようなイメージがあるかもしれませんが、その目的は授業を通して「プログラミング的思考」を身につけることです。
プログラミング的思考とは文部科学省の定義によると、
自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力
とされています。
ある目的を達成するために、必要な要素を分解・組み合わせて最適な方法を実行していくことともいえます。
たとえば「テストで5教科平均80点取る」ことを目的とした場合、
- 各教科の前回の点数を確認する
- 各教科の目標点数を決める
- その目標点数を達成するために必要な勉強量を決める
- テスト日から逆算して各教科の1日の勉強時間を決める
といったように、目的と過程を明確にしてより良い方法を考え行動していくというプログラミング的思考が使われています。
プログラミング教育で問題解決能力を養うことで、子どもたちが今後困難に直面した時に、解決のための筋道を考える助けになります。
アクティブラーニングについて学べる本はある?
アクティブラーニングについてもっと知りたいと思ったときに、どういった本を選んだらいいか紹介していきます。
アクティブラーニングの本といっても、さまざまな種類があります。
何となく選ぶと、「思っていたのと違った」ということにもなりますので、目的を決めて探していくことをお勧めします。
目的として例えば、
- アクティブラーニングの視点を活用した家庭学習
- アクティブラーニングの知識を学びたい
- アクティブラーニングの事例を知りたい
といったことがよくあり、それぞれ選ぶ本が違ってきます。
アクティブラーニングの視点を活用した家庭学習
保護者の方が、家庭で子どもと一緒にアクティブラーニングを実践したい、という目的であれば「アクティブラーニング 家庭」などで検索すると、家庭学習のための手法が載ったガイドブックなどが見つかります。
その中でも「小学生向け」など年齢によって分かれていることが多いので、子どもの成長に合わせた本を選んでいくといいでしょう。
アクティブラーニングの知識を学びたい
アクティブラーニングそのものについてもっと知りたい、という場合は「アクティブラーニング 入門」や「アクティブラーニング 理論」などで調べていくと、アクティブラーニングの歴史や考え方など詳しい説明をしている本が出てくると思います。
まずは「入門」や「初心者」とついているものから始め、徐々に専門性を高めていくといいでしょう。
アクティブラーニングの事例を知りたい
アクティブラーニングが実際に教育現場でどのように実践されているかを知りたい場合は、「アクティブラーニング 事例」「アクティブラーニング 実践」などで検索することで、事例集などの本を見つけることができます。
保護者の方が見る機会の少ない教育現場での取り組みが多く紹介されているので、子どもがどういったことをしているのか知ることができて、家庭での教育にも役に立つと思います。
アクティブラーニングについて紹介しているサイトを参考にする
書籍以外にもアクティブラーニングについて学ぶ方法として、以下のようなサイトもあります。
立教大学の中原淳研究室と日本教育研究イノベーションセンターにより、日本の高校でアクティブラーニングの視点に立った事例の収集などを行い、公開しているサイトです。
アクティブラーニングのまとめ
アクティブラーニングは子どもが主体的に学んでいくような学習方法です。
アクティブラーニングでは従来のような先生が黒板に書く文字を移すのではなく、自ら進んで課題を見つけ、他の人と協力して解決に当たり、深い学びを得ていくような方法で、子どもがこれからの社会で生きる力を養っていくために重要と位置付けられています。
また、アクティブラーニングはプログラミング教育とも関連が深く、どちらもただ知識を学習するだけではなく、考え方を身に着けることで、今後困難があってもそれを乗り越えていく力を養っていきます。
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