公開日:2023.04.24
- デジタル教科書
デジタル教科書とは?メリットとデメリット、導入予定などを解説
「子どもの学校において、デジタル教科書の導入が予定されている」という話を聞いたことのある保護者の方も多いかもしれません。
あるいは、子どもが学校において、もうすでにデジタル教科書を使っている場合もあるでしょう。
デジタル教科書とはどのようなもので、どのような目的で導入されようとしているのでしょうか?
この記事ではデジタル教科書の導入の背景や、想定されている導入のメリットとデメリット、デジタル教科書の導入の時期などについて説明します。
デジタル教科書とは
デジタル教科書とは、紙の教科書と同一の内容がデジタル化された教材のことです。
デジタル教科書には、以下の2種類があります。
- 指導者用デジタル教科書:主に教員が補助教材として、電子黒板やプロジェクターなどに紙面を提示して使う
- 学習者用デジタル教科書:児童・生徒一人ひとりが学習者用コンピューターなどで使用する
これらのうち、この記事では「学習者用デジタル教科書」について説明します。
「学校教育法等の一部を改正する法律」などの法令が2019年4月より施行されたことで、従来の紙の教科書に、必要に応じてデジタル教科書を併用することが可能となりました。
デジタル教科書は「紙の教科書と同一の内容」であるため、動画や音声、アニメーションなどのコンテンツは「デジタル教科書」には該当しません。
これらは「デジタル教材」と呼ばれる補助教材にあたり、デジタル教科書と組み合わせて活用することが想定されています。
デジタル教科書導入の背景
デジタル教科書が導入されることになった背景には、社会情勢と学習環境の変化があります。
近年は、生活のあらゆる場面で「ICT」が活用されることが増えてきています。
ICTとは「Information and Communication Technology」の略語で、日本語では「情報通信技術」と呼ばれます。
ICTは例えば、公共交通機関に乗る際のICカードやオンラインショッピング、テレワークやWeb会議、オンライン診療など、身近な場面でも活用されています。
文部科学省は、子どもたちがこのような社会で将来活躍できるようになるよう、学習においてICTなどの技術を活用した活動をおこなっていくことが必要であるとしています。
このため2010年より、パソコンやタブレット端末、インターネットを活用した教育方法である「ICT教育」の導入が始まりました。
2020年度に小学校に導入された「プログラミング教育」もこの一環です。
このように、教育においても情報化が進む中で、学びの手段や学習環境としてのICTの可能性などを見すえて、「教科書へのICTの活用のあり方」として検討されることとなったのがデジタル教科書です。
文部科学省はまた、2021年度から児童・生徒1人1台の端末をはじめとするICT環境の整備をおこなう「GIGAスクール構想」を進めています。
2022年3月時点で、1人1台のICT端末の整備がほぼ完了しています。
デジタル教科書制度化の内容
2019年度におこなわれたデジタル教科書の制度化では、一定の基準のもとで、必要に応じて紙の教科書の代わりにデジタル教科書を使用できることとなりました。
「一定の基準」とは、以下の場合を指します。
- 新学習指導要領で言及されている「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善など、児童・生徒の学習を充実させるために、教育課程の一部において、紙の教科書の代わりに学習者用デジタル教科書を使用できる
- 視覚障害や発達障害、色覚に関する特性などがあるために紙の教科書を使うことが難しく、特別な配慮を必要とする児童・生徒などに対して、学習上の困りごとを減らす必要がある場合には、教育課程の全部において、紙の教科書の代わりに学習者用デジタル教科書を使用できる
参考:文部科学省「学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン」 P4-5
発達障害については、こちらの記事で詳しく解説していますのでよろしければご覧ください。
デジタル教科書を導入するメリット
文部科学省は、デジタル教科書の導入により、以下のような学習方法が可能になるとしています。
文字を拡大して表示する
出典:「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた教科書・教材・ソフトウェアの在り方について(案)」(文部科学省)(2023年4月5日に利用)
デジタル教科書にペンやマーカーで書き込む
出典:「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた教科書・教材・ソフトウェアの在り方について(案)」(文部科学省)(2023年4月5日に利用)
デジタル教科書に書き込んだ内容を保存し、再び表示させる
出典:「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた教科書・教材・ソフトウェアの在り方について(案)」(文部科学省)(2023年4月5日に利用)
また、特別な配慮を必要とする児童・生徒などに特に役立つ機能には、以下が挙げられています。
視覚障害や発達障害のある児童・生徒の例:
- 文章を機械音声で読み上げることができる
発達障害のある児童・生徒の例:
- 背景色、文字の大きさや色、行間や文字感覚を見やすいように変更・反転する
- 漢字にルビを振ることができる
さらに、デジタル教科書とデジタル教材を組み合わせて使うことで、以下のような学習方法が可能となるとしています。
- 音読や朗読の音声、ネイティブ・ スピーカーなどが話す音声が教科書の文章に同期される
- 文章や図表などを抜き出して活用するツールを使うことができる
- 内容に関連した動画やアニメーションなどを参照できる
- 内容に関連したドリルやワークシートなどを使うことができる
デジタル教科書を使ってみた児童生徒の声
実際にデジタル教科書を使ってみた児童・生徒は、どのように感じているのでしょうか?
文部科学省は2021年度、デジタル教科書の実証研究事業の中で、小学校の中高学年と中学校を対象としてアンケートをおこなっています。
「デジタル教科書と紙の教科書を比べて感じること」という設問では、多かった回答の順に「いろいろな情報を集めやすい」「図や写真が見やすい」「一度にいろいろな資料を見て比べやすい」となっており、肯定的意見が多いことがわかります。
出典:「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた 教科書・教材・ソフトウェアの在り方について(案)P40」(文部科学省)(2023年4月3日に利用)
また、「授業でデジタル教科書を使うようになって勉強が楽しいと感じるようになったか?」という設問では、すべての教科について、半数以上が肯定的な回答を寄せています。
出典:「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた 教科書・教材・ソフトウェアの在り方について(案)P41」(文部科学省)(2023年4月3日に利用)
さらに、小学校低学年を対象としたアンケートで「勉強が楽しい」と回答した児童のうち、約3割が 「デジタル教科書を使うようになってから、楽しくなった」と回答しています。
これらの回答からは、デジタル教科書が児童・生徒におおむね肯定的に受け入れられている様子がわかります。
デジタル教科書導入で想定されているデメリットと対策
デジタル教科書の導入には、デメリットも考えられるのでしょうか?
文部科学省は、デジタル教科書を使うにあたり、留意する点と対策を主に以下のように示しています。
- デジタル教科書の故障や不具合などが起こりうる
対策:可能な限り、予備の学習者用コンピュータを準備しておくとともに、紙の教科書を常に使用できるようにしておく
- 児童・生徒の、文字を手書きすることや実験・実習などの体験的な学習活動がおろそかになる可能性がある
対策:漢字の練習や計算など、書くことが大事な学習場面ではノートの使用を基本とする
- 児童・生徒が授業と関係のない内容を端末で閲覧し、授業に集中しなくなる可能性がある
対策:デジタル教科書を使わないときは画面を閉じるなど、適切な使用を指導する
- 心身への影響の懸念
対策:使用の際の姿勢に関する指導や、端末を一度に見続ける時間が長くならないよう配慮した授業の展開をおこなう など
デジタル教科書導入はいつから?
デジタル教科書は現在、どの程度普及しているのでしょうか?
文部科学省がおこなった調査によると、2022年3月現在のデジタル教科書の整備率は、全学校種で36.1%となっています。
ただし、都道府県により整備率に差があります。
整備率が最も高いのは和歌山県で53.9%ですが、最も低いのは愛知県で20.9%と、倍以上の開きがみられます。
今後の導入予定
デジタル教科書は今後、2024年度から本格的に導入されることが予定されています。
導入は段階的で、まず小学校5年生から中学3年生の「英語」の授業において先行導入がおこなわれたのち、現場でのニーズが高い「算数・数学」の授業で導入する方向で検討がおこなわれています。
しかし、児童・生徒一人ひとりの学び方には特質があることや、慣れるには少なくとも数年は必要と思われること、予算面の問題などから、当面の間はデジタルと紙の教科書を併用することとされています。
デジタル教科書のまとめ
デジタル教科書は紙の教科書と同じ内容がデジタル化された教材のことで、2024年度より小・中学校において本格的に導入される予定となっています。
しかし予定されている導入は段階的で、当面の間はデジタル教科書と紙の教科書を併用することとされています。
デジタル教科書の導入により学習方法の幅が広がることが予想されるほか、配慮を必要とする児童・生徒などにとっても学習上の困りごとの軽減につながることが期待されています。
デジタル端末を活用してプログラミングを学ぶ
教育におけるICT化が進み、2020年度からは小学校にプログラミング教育も導入される中で、子どもがデジタル端末やプログラミングなどに興味を持った場合は、プログラミング教室で興味を伸ばしていくこともできます。
5歳から高校3年生までを対象とした子どもプログラミング教室を運営するLITALICOワンダーでは、パソコンやタブレットなどのデジタル端末を使ったプログラミング学習を提供しています。
学校のプログラミング教育にも活用されているプログラミング学習ツール「Scratch(スクラッチ)」を使うコースなどがあり、子ども一人ひとりの個性にあわせて授業が設計されます。
- 文部科学省「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた 教科書・教材・ソフトウェアの在り方について(案) ~ 中間報告(論点整理案) ~」
- 文部科学省「3.学習者用デジタル教科書について」
- 文部科学省「学習者用デジタル教科書の効果的な活用の在り方等に関するガイドライン」
- 文部科学省「学校情報化のこれまでの動きについて ~GIGAスクール構想の実現~」
- 文部科学省「見てみよう教育」
- 文部科学省「デジタル教科書に関する制度・現状について」
- 文部科学省「学習者用デジタル教科書に関する法令の概要」
- 文部科学省「学習者用デジタル教科書のイメージ」
- 文部科学省「『デジタル教科書』の位置付けに関する検討会議 最終まとめ」
- 文部科学省「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実に向けた 教科書・教材・ソフトウェアの在り方について(案)」
- 文部科学省「令和3年度学校における教育の情報化の 実態等に関する調査結果(概要) (令和4年3月1日現在) 令和4年10月 文部科学省 〔確定値〕」
- 衆議院「第208回国会 文部科学委員会 第12号(令和4年6月3日(金曜日))」